曲の作り方①〜曲は誰もが作れる〜
今回から、曲の作り方、曲作りの工程について3回くらいに分けて書いてみようと思います。
※全て書いてから、3回では音楽的なところまでは書き切れないことに気づいたので、この記事では、曲の大まかな作り方と、実際にサビを作るところまでを書いています。気付けば具体的な曲作りをしたことについてのただの記録のようのものになってしまった感じもあるんですが、曲ってどうやって作ってるんかいなと興味を持てそうな方には、時間のある時にでもお読み頂ければ嬉しいです。
はじめに
僕はコンペにガンガン出してメジャーアーティストに提供しているような職業作家ではありません。
(※コンペ:主にメジャーアーティストなどに提供する曲を決める競技会のようなもの。多くはアーティストを抱える事務所などが作家事務所を対象に行います。)
作家事務所との繋がりはありますが、仮歌など歌の仕事を頼まれる事がほとんどで、コンペは数えるくらいしか参加していません。
基本は、個人で活動するアイドルさんやシンガーさんからの直接の作曲依頼や、自分のプロデュースするユニット用につくりたい時につくっているだけのコンポーザーです。
なので、売れる曲作りってのはこうなんです!みたいなことは言えませんし、今現在、作家として所属していて、コンペに通るためのコツが知りたいとか、いい音源や機材が知りたい方には向いていない内容です。
そういう方はSleepfreaksさんの制作レシピとかがいいと思います。最近の白戸佑輔さんの回なんかはとても参考になると思います。
https://sleepfreaks-dtm.com/category/produce-recipe/
ちなみに僕が作っているのはこういう曲です。
なんだよ知らねーよ全然売れてる曲じゃねーなと思わせてしまった方には、もう本当に時間を無駄にさせて大変申し訳ございませんとしか言えません。ここで閉じて頂ければと思います。
曲は誰もが作れる
ちょっと批判を浴びそうな胡散臭いタイトルにしてしまいましたが、実際、口でも手でも足でもどこでもいいので、どこかを使って"意図して音を発する"ことができる人なら、曲は誰もが作れます。
音が出れば、あとはその音を認識して、曲と言われるある程度決まった型に流し込んでいく作業をするだけです。
僕は少し前から『楽器が弾けない人でもそれなりの曲ができる作曲レッスン』というのを音楽初心者(子供からご年配の方まで)を対象に行っています。
オリジナル曲というものの敷居が下がって、オリジナル曲をつくれる人が増えたら、自分で自分のモチベーションをあげる曲を作ったり、所属する会社やスポーツチームの曲を作ったり、家族や友人のお祝いソングを作ったり、子供の子守歌を作ったりということになって、なんだか面白そうだなと思っています。
勿論、結婚式に新婦さんの好きなアーティストの曲をカラオケで歌うのもいいんですけど、新郎新婦のお互いの呼び名や、新婦が小さい頃遊んでくれたおじさんの名前が入っていたり、あの時はこうだった、ああだったみたいな、本来エピソードトークになるような部分をオリジナルソングの中に詰め込んだりしたら、それもそれでなんだかメモリアルな感じにはなるじゃないですか。
そういう、メジャーな、マス的な音楽とは対極にある、小さいけど、私のため、私たちのために作った曲、みたいな濃い音楽がもっと沢山あってもいいのかなと思っていて、だから曲を作るというカルチャーをもっと広めようとしています。
作曲って、クラシックみたいな格式の高そうなものから、楽器の入らないメロディだけの鼻歌まで幅広くあって、確かにクラシック系とかオーケストラ系は簡単にはできないものもあるかもしれませんが、決して音楽を専門でやっている人だけの専売特許ではなくて、特に最近は音楽機器の発達やサービスの充実で、作ろうと思えば誰でも音楽が作れるようになっています。
たとえばiPhoneやMacに標準で入っているGarageBandというアプリは、好きなジャンルを選んで、好きな展開を選択すれば、ある程度音楽的に破綻しないように自動で繋いでくれて、曲になります。
iPhoneのGarageBand[LIVE LOOPS]
色々なジャンルの音が最初から用意されています
下の三角マークを押すだけで様々なパターンの演奏が再生されます
iPhoneのGarageBand[DRUMMER]
ドラムを自動で演奏します
僕が作った曲にUSHIKUNというあるアイドルオタクのことを歌った曲がありますが、それは全部Logic(GarageBandの上位版)というソフトに元々入っているドラムとギターの音を使いました。なのでドラムを叩きもしないし、ギターを弾きもせず曲ができています。
サービスとしては、あなたの鼻歌から曲を作りますよ、とか、歌詞に曲をつけますよっていうサービスを提供している人がココナラとかクラウドワークスとかに沢山います。
ココナラ
coconala.com
クラウドワークス
crowdworks.jp
正直、この辺りで頼んでしまえば鼻歌もかなり立派な曲に仕上がります。作っている人も音楽に精通していて、多少おかしなところは修正しながら無理のない音楽に仕上げてくれるので。
だから鼻歌さえできればきちんとした形の音楽になるので、楽器が弾けなくても作曲はできるんです。
後述しますが、そういうプロの作曲家も実際にいます。
僕も上のUSHIKUNやSHIBASAKIに関しては自分でアレンジ(編曲)していますが、それでもいまいちアレンジがうまく湧かない気がする時や、時間的に間に合わないような時はアレンジャー(編曲家)さんに任せることはあります。
頼めばそれはそれはいい音とアレンジで返ってきます。
ちょっとお金はかかるので予算次第ではありますけど、メジャーのアレンジャーに頼むと1曲30万円はするところが、3〜8万円ほどなので、破格ではあります。
基本は全部メールでやり取りするので、細かい好みやニュアンスを伝えるのが難しかったりはしますが、音質的には十分です。
この『アレンジャーに投げる』というのは、メジャーの現場でも普通にあることで、作曲家といっても、アレンジまで全部ひとりでやれる人から、トップライナーといって、歌のメロディーしか考えないという人まで色んなタイプの作曲家がいます。
海外ではコライトといって何人かの作曲家が一緒に1曲を作り上げるのが結構主流だったりします。
実際、僕の音楽学校時代の友人が最近、欅坂46の作曲をしたんですが、彼は楽器やアレンジはできないらしく、メロディーを考えただけで、他の音は別の作家がつけたと言っていました。
そんなわけで、今や作曲というのは、デジタルイラストや映像編集などと同様に、一部の限られた人だけができるものではなくなっています。
もちろんどの分野でも、クオリティー的にはプロには劣るかもしれませんし、プロはプロでどんどん新しいものを生み出しているので、プロになれるかどうかという点に関しては、また別のアプローチが必要にはなるとは思いますが。
でも何より、僕自身が音楽を作るようになって、形として自分の思いとか感覚みたいなものを残していけるのは、なんか変な言い方ですが、安心というか、自分の足跡を残せている感覚みたいなものがあって。
まだ自分の中で、ある程度ここまでは、みたいなところを達成できていないので今死ぬのは嫌なんですが、でも曲を書き終える度に少しホッとするのは、締切から解放される安心感だけではないんですよね。
それから昔、両親が変な替え歌に乗せて僕のことを歌っていたのをいまだに覚えていて。本当に大したことのない短い歌ではあったんですが、それでももう30年以上経っても覚えていて、思い出してちょっと優しい気持ちになれたりするのは、ただの言葉ではなく両親が適当に作った曲があったからだと思っています。
学生時代に、必須アミノ酸を自分で作ったメロディーに乗せて覚えたんですが、それもまだ覚えていて、たまにクイズ番組の問題で出てきて答えられた時、妻に「すごーい」と言われ「フフっ」とできるのは、やはり曲にしたからだと思います。
皆さんも、暗記したもので今も覚えているものって、意外とリズムとか音程みたいなものがありませんか?
それもひとつの立派な作曲です。
だから世の中にもっと音に乗った言葉が増えて、それが自分の中だけでも、家族の中だけでも、小さなコミニュティーの中だけでも流行ったり受け継がれたりするようになると、ちょっとコミニュケーションが変わったり、結束力とか絆が変わったり、思い出が変わったり、芸能や芸術の見方がいい方向に変わったりするんじゃないかと思っています。
曲作りをする人が増えることで、歌うアーティストだけでなく作詞家や作曲家、編曲家、ギタリストやドラマーなどのプレーヤーやエンジニアさんにまで注目する人が増えて、音楽がもっと広く色んな視点で楽しまれたり賑わったりしてくるといいなという思いもあります。
前置きが相当長くなりましたがそんなわけで、楽器がそもそもできないけど曲をつくってみたいとか、歌詞はできるけど曲がつけられないとか、そもそも音楽ってどうやって作ってるのか興味あるなという人達がこの記事を読んで少しでも参考になればと思って書いてみます。
今回は実際に僕がオーダーを受けて作った曲のことをベースに説明してみたいと思います。
いきなり曲作りのことを知りたい人は 歌詞の素材を集めるからどうぞ。
アイドル加藤育実さん
僕が今音楽制作を担当している中のひとりに、加藤育実(かとういくみ)さんというアイドルさんがいます。
テレビ東京ゴッドタンのマジ歌選手権という企画で、バナナマンの日村さんがヒム子というアイドルに扮して歌を披露するんですが、そのヒム子が組んだアイドルユニットに「ヒム子ーズ」「ヒム子組.com」というものがありまして、加藤さんはそこのメンバー・マリンちゃん役をしていたりします。
2015年頃に加藤育実さんのボイトレを始めたのがきっかけで色々と一緒にお仕事をするようになり、一時はマネジメントしたりもしていたんですが、今は主に音楽系のことに携わっています。
あとは僕がプロデュースする種を越えた音楽ユニット「猫に女子」にしじみちゃんというキャラで参加してもらっていたりもします。
そんな加藤育実さんから、今年の4月頃に曲を2曲出したいという相談を受けました。
1曲は初めて自分で作詞する曲、もう1曲はファンの人から歌詞を募集して作りたいというオーダー。
加藤さんが作詞した曲についてはまた別の機会があれば書くとして、今回はファンの方から募集した歌詞で作った曲のことを書きたいと思います。
歌詞の素材を集める
まずTwitterなどで告知をして、メールで歌詞っぽいもの、歌詞の素材になりそうな言葉を送ってもらいました。手書きしたものを写真で撮って送ってくれた方もいます。大体このくらいのボリュームです。
人によってはもうこのまま3曲分できるなっていうくらいの量で、形もかなり整えて作っている方もいらっしゃいました。
本当は送られた言葉を全部入れてヒャダインさんみたいに転調しまくりの奇想天外な展開とかにしてみたいなと思ったりもしてたんですが、30分くらいのメドレーソングみたいにしかできない気がしたので断念しました。
ひとりで歌詞を書く場合も同様に、まずはこうやって歌詞の断片みたいな言葉を思いつく限り沢山出していきます。
歌詞になりそうな言葉を絞る
素材の言葉が集まったら、ここから歌詞になりそうな言葉を選んでいきます。
※既に歌詞の形ができている場合ここは飛ばします。
まず何にせよ、真っさらな気持ちで全部の言葉を読みます。
そして、もう一度、読みます。
更に、もう一度、読みます。
ここでざっくり、歌詞の全体が明るいか暗いか、ぐらいの雰囲気を掴みます。それと、できれば曲のテンポもなんとなくイメージします。
ちなみに今回の場合、"明るい笑顔、楽しい、ハッピー、だけどいつかは来る別れ"みたいな内容もわりと多くて、興味深かったです。
確かにアイドル個人として見ると、バンドやシンガーという肩書きの人よりも活動期間が限られているイメージはあるので、そういう内容になりやすいのかもしれませんね。
ただ基本的にはやっぱり明るい感じが多かったのと、加藤さんのオーダーと好み的に、暗いだけの曲というのはNGなので、「明るい、面白い、パワフルな曲調で疾走感のあるテンポにする。もし"いつかは来る別れ"みたいな侘び寂びを入れるとしても、部分的に使うくらい。」みたいなイメージをここである程度持ちながら、読んで頭に残っている言葉を書き出します。
なければ、もう一度、頭に残す気で全部読みます。
募集した中だと僕はこの辺りが頭に残りました。
・いつでも笑顔になれる
・ファンとの絆を大事にします
・数字に弱い 九九が苦手 七の段はコンチクショー
・迷子の携帯みんなで捜索
・胃袋から掴んでいくアイドル
・Let's go!君らと一緒に歩む路(みち)
・Here we go!僕らは共に進むのさ
・ライブが始まれば周りを巻き込む強い力
・令和でも可愛すぎてつれーわ
・隅っこで見てるだけじゃつまらない
・前に来て声出そう。楽しいから。
・バス乗り場わからず半泣き状態
・あのナミダが忘れられない
・彷徨Growing up
・いつでも全力投球、全力疾走、全力少女
・百均大好き
・無邪気な君が僕を呼ぶから
・楽しまなきゃ損グ
実際はもっとあるんですが、ここは参考までにということで。
今回は一旦ここまでで、次回は、サビを作るところから始めます。
読んで頂きありがとうございました。